17歳、サンタさんの正体を知る
上は現在20、下は現在16の私達三姉弟。未だに全員、サンタさんの存在を信じていた訳である。この年齢になっても。
昨日当然、私は、煙突そのまま抜けたらうちはストーブに繋がっているんだけどどこから来るのかな?などと気にしながらも、例年通りホットミルクとクッキーを用意して、弟と二人でサンタさんを待っていたのである。
しかしその夜。私は3時間ほどお昼寝していたという事が影響し、全く眠れなかった。
そして0:30頃。何やらクリスマスツリーのある一階が、少し騒がしい事に気が付いた。プレゼントは毎年、ツリーの下に置かれている。サンタさんだ!と、私は思った。
地獄耳の私は日常から、一階で話している会話が二階の自分の部屋にいても8割ほど聞き取る事が出来る。特別耳を澄ませなくとも、一階の物音が聞こえてきた。
何やら、ガサゴソと物を動かすような音。それは、いつもこの時間には聞こえない音。プレゼントを用意している音に違いない、と確信して、とてもわくわくした。
しかし、少ししてその音が止まった後。直後に、誰かがトイレに入る音がして、私はショックを受けた。
サンタさんは、他人の家で無断でトイレを借りるだろうか?そして、流す音が聞こえなかった。そこまでサンタさんは無礼じゃないと思い、親だと確信した。
そしてスリッパを履いているようなあの足音と、トイレを流さないことから、その正体は恐らく父。プレゼントを置いたのも、恐らく父だろう。だってあんな直後にトイレに行ったなら、少なからずサンタさんを見て驚いていただろうが、その様子もなかったから。
私が今までサンタさんの正体を疑ってならなかったのには、理由がある。それは、親は二人共早寝で、目覚ましもかけずに夜中に起きれないと思っていたから。しかしよく考えれば、父は度々トイレで夜中に起きる。トイレで起きたついでにプレゼントを置くなら、不自然ではない。むしろ、あまりに自然ではないか?
朝起きると、用意したクッキーは二枚だったが、一枚減っていた。 しかしホットミルクは、あまり減っている様子が無かった。それは、毎年の事。
しかしサンタさんの正体に疑念が生まれる今。よく考えると、それもそのはずだ。クッキーは恐らく、朝起きて母が食べたのだろう。父は違うが、母はクッキーが好きだから。しかし牛乳は二人共そんなに好きではない。減っていなくて、当たり前。
私は17年間信じていたサンタさんの正体が親だと、確信してしまったのである。
そんな私は、サンタさんがどこでプレゼントを購入したのかという推測をした。
プレゼントの内容は、弟と私それぞれ、ヘアワックスと図書カード、腕時計と図書カードだ。
まず図書カードは、中に平安堂の小さな広告が入っていた為、平安堂で購入したのだろう。次に、ヘアワックス。それは特に、ラッピングがされていなかった。恐らく、ウェルシアやマツキヨといった、薬局で購入したのだろう。最後に、腕時計。そのラッピング袋に、見覚えがあった。恐らくホームバザーという名の雑貨屋で購入したのだろう。
そしてそれら、平安堂、薬局、雑貨屋が揃っている場所があったのだった。それは、上田のビッグあたり。あそこの敷地にはいろいろな店が存在しているが、それら三つも見事に揃っている。そしてここがスーパーの少ない村の為、週に一回、母は上田のビッグに買い出しに行くのである。
毎週それなりに多くの量を買ってくる、母。その中に一度、こういうプレゼントが混ざっていても私達は気づかないだろう。
……こうして見事に、プレゼントの購入場所まで私は確信したのである。
今まで17年間。周りに、小学生でもう既に信じなくなった子がいても、その存在をただただ信じていた私。まさかこの地獄耳のせいで、その状態を知ることになるとは、思ってもいなかった。
誕生日には、両親が三千円くれていた。しかしサンタさんがくれる図書カードが、既に三千円。腕時計などを含めれば、更にお金がかかっているという事が分かる。どうして誕生日は、月のお小遣いよりもサンタさんよりも額が少ないのだろう?という疑問を、私は抱いていた。
しかしクリスマスは、そこまでお金をかけてでも、親は私達子供に夢を持たせようとしてくれていたのではないか?と、今になって思う。
サンタさんの正体を知ってしまった事もそうだが、そう配慮してくれていた親の優しさを裏切った気がして、それが何よりも悲しい。本当に、悲しい。
現在海外にいる姉はまだ信じているだろうか?それは、分からない。しかしせめて、二つ下の弟にはまだ信じていてもらいたいし、信じさせてあげたい。あいつは早寝で耳も遠いし鈍感だから、よほどの事が無い限り、正体には気づかないだろう。
だから大人になるまで、あいつには夢を持たせ続けてあげたい。
私は弟に、「昨日、サンタさん来たタイミングに気付いちゃったかも!」と話しただけで、それ以上は何も言わなかった。あいつのキラキラした目を、私は忘れない。
「来年も、一緒にホットミルクとクッキーを用意して待ってようね」
私はそう、弟に約束をした。あの無邪気な目の透き通る綺麗さが、何故か少し切なかった。